宿直のお兄さん

「さっきのワルツもう一度弾いてみてよ」
言われるままショパン嬰ハ短調のワルツを弾いてみせると
「いい、すごくいい。良いセンスしてるね」
そういわれて何だか女学生のように照れて赤面した。
下校時間もとうに過ぎて薄暗い第二音楽室でいつものようにピアノを弾いていると大学生くらいの男が二人入ってきた。びっくりして手を止めると
「いいから、構わずに弾いてて」という。
私自身もやった事があるのだけれど、きっと彼等は小中学校の宿直のアルバイトをしていたんだと思う。おそらくは吹奏楽部のOBだ。その頃あまり意識はしなかったけれど、既にユニセックスな雰囲気があった私は自分の才能を認めてくれる彼になぜか説明しようの無いようなときめきを感じた。愛されると直ぐ好きになった中学生の頃の淡い思い。
考えてみれば私のタイプというのはその頃から決定されていて、己が歳を取るほどに逆転してどんどん相手は年下になるばかり。それでもやはりタイプは二十歳前後と言う事になるんだろうね。
その中学で吹奏楽部だった親友が今は私にこう言う。
「お前のは才能の無駄遣いだ」
しばくど (-"-;