古時計

「おい、柱時計のネジを巻いておいてくれ」
「うん、わかった」
「このネジは左巻きだからな?」
「知ってるよ」
正月に帰れなかった姉が、仕事を一段落させ休みを取って帰省した。
昔話や馬鹿話で盛り上がって高笑いしているところへ、父が何だか楽しそうだなと云わんばかりに顔を覗かせ、そういや時計が止まったままになっているから
ネジを巻いておいてくれと私に云う。
産まれた頃からある古い古い柱時計だ。正時と半時にボ〜ンボ〜ンと鐘が鳴る。椅子の上に乗り左右の孔に蝶ネジをあてがいガチャガチャと回す。今の時間に合うまでクルクル針を動かせていると懐かしい鐘の音が部屋に響く。
再び姉と馬鹿話をしながら大笑いしていると、父が
「ちょっと椅子を貸してくれ」と云う。
「何するの?」と聞けば「時計を動かすんだよ」
なんて言い出すので、あらら、親爺様もちょっとボケてきたのかしらん?
なんて思いながら「時計ならさっきネジ巻いたって!」といえば
「あほう!振り子を動かさないと針が進まんだろうが」
「あれまぁ、ほんとだ。忘れてたわw」
「なんだか僕の方がボケ老人みたいだね」
そう云うとまた3人で大笑いした。
どんなに時が進んでも、うちは昭和の家族のまんまだ。