老いらくの恋

今日の昼下がり不意に親爺様の様子を窺いに実家を訪れると、鍵が閉められていたので、おや、何処かへ出かけたのかと合い鍵で開けてみるとドアチェーンが掛かっている。ったく、こんなものまでかけてもしもの事があったらどうするんだよとイラついていたら、暫くして親爺様が出てきた。
中へ入って何やら様子がおかしいと思ったら、見知らぬ令嬢が。
いや見知らぬというのはちょっと違うが、話にだけは聞いたことがある。もうかれこれ何年も前、親爺様がとある駅前で胸が苦しくなってうずくまっているところを、偶然通りかかった彼女が介抱してくれて、方向が同じだからと(とはいえ隣の市)親切にも家まで送ってくれたそうだ。以来事ある毎に家を訪れ、部屋の掃除やら洗濯やら身の回りの世話をして下さるらしい。今は東京へ転勤されたそうで滅多に来れないそうだが、帰省のついでと寄ってくれたそうな。
まぁ、世の中には何と奇特な人もいるものだろうかと思うが、昔の切っ掛け以来、何やら二人には交際めいたものが始まっており、特に親爺様などは「この子はワシの彼女だ」と宣ふ始末。◎小路という名前からしても、芦屋の六麓荘が実家だと云うことからしても名家の令嬢には違いない。違いないが何故そんなご令嬢がこんな爺様のことをそこまで構ってくれるのか。
うちには金目の物はもとより財産なんて物も一切無いから、彼女の心からの好意ではあるのだろうけれど、世の中不思議なものだねぇ。
私も何処か街角で倒れてみれば、どこぞの名家のご子息にでも出会わんものかねぇ。まぁ、身ぐるみ剥がれてどぶ川にでも突き落とされるのがオチか (-"-;
なんだかこの期に及んで楽しんでいる親爺様を観ていたら、急に気が抜けて
(こりゃ、しばらく死にゃせんわ)と肩の重荷が一気に下りたような気がした。
さて、それじゃ私も明日から癒しの旅にでも出かけるとしようか…
ってか、ドアチェーンなんぞかけてこのオヤジ何やってやがったんだ? (-"-;