くものいと

旅の初日、温泉の露天でうとうとしながら、ふと庭の木を見上げれば、蜘蛛の巣に落ちた蝉の抜け殻があった。仰向けに巣に掛かり、風がやさしくそよぐ度、まるでハンモックに揺られ眠るかのようにゆらゆらゆらり
なべて人の一生など、この蝉の抜け殻のようなものかも知れぬ。うつつに惑い色に溺れ幻を追いながら、いつか抜け殻を残して魂は旅立つ。向かうその先は誰も知らないけれど、心地良さそうに風に揺られる抜け殻を見れば、この世もまんざら悪いものではなかったと語りかけるように思えてならない。