親父の本気とオカンの涙

私の親爺の額には傷がある。
昔々、初めての子供、つまり私の兄が産まれた時、父は子育てに気負ったのか、兄を厳しく躾けたそうだ。
ある日、それがエスカレートして折檻に変わり、勢いに任せて激しくなるそれを見かねて、オカンがぶち切れた。咄嗟にオカンは卓袱台にあった土瓶を掴むと、渾身の力を込めて親爺の顔めがけて投げつけたのだ。土瓶は見事親爺の眉間に命中し、額が裂けた。何度も母に聞かされた話だけに光景が目に浮かぶ。
私は上の兄弟とは年が離れているので、その頃は親も余裕の子育てだったろうし、そこまで激しい光景に見まわれたことはないけれど、時に我が儘が過ぎて、本気で食らう親爺の鉄拳にはビビりまくったもんだ。
最近、子供を本気で叱れる親が少なくなった。
「そんなことしたら、おっちゃんに怒られるよ?」
決まって彼らはそう言う。
確かにおっちゃんは怒ってるさ。
けど、いけないのはそのガキがしていることなのさ。
「いけません!やめなさい!」
なぜそう、素直に叱らないんだ?それでも聞かなきゃ、一発シバけばいいんだ。そして、なぜいけないのか、何が悪いことなのか、ちゃんとその場で教えてやらないと、まだ犬同様のガキなんか、いつまでも学習しないって。
子育てって、一方的に子供を育てることではないのだよ。育てるおのれもまた学んで大人になるんだ。
そして、大人になった親父の本気と、オカンの涙には、
子供は無条件降伏するのさ。